平苺にとって、今までの人生でいちばん楽しい夜だった。
彼女の大切な少年が、その綺麗な頬を。真っ赤に上気させながら、クリスマスイブの夜を
誘ってくれたのである。もちろん、それとなく平苺からも、お願いしていたからこその
結果ではあるが、薄く積もった雪の中をやってきた少年と二人きりで過ごす夜は、
それだけで、今までの人生の不運や、理不尽をすべて許してもいいぐらい贅沢な気分だった。

「こんばんは、平苺さん…!」「はい、まってたのよ、ほめおくん!あがってあがって!」
会社をかなりの混乱に巻き込みつつも、有給をとって、部屋を片づけ、モールやツリーを飾り付け、
平苺が、腕によりをかけて下ごしらえを済ませた料理を、キッチンで並んで、二人で仕上げていく。
完成したクリスマスディナーを思う存分に楽しみ、ブッシュ・ド・ノエルを切り分けて、
シャンメリーではない、本物のシャンパンを少しずつグラスに注ぎ分ける。
「あのう、ぼく、お酒は…」
「いいの、ほんのちょっとだから、ね?」
  幸せそうに頬を寄せる平苺の笑顔に押し切られる形で、グラスに口をつけるほめ男少年。
「わ…熱いような…甘いような…辛いような…」
「うふふふふ、ほら、だいじょうぶでしょ?」
  料理とケーキ、お菓子と飲物を楽しみながら、思う存分におしゃべりをする、他愛ない
時間が、平苺には、想像もしていなかったほど大切に感じられた。

 夜も更けて、ほめ男が愛用のヒヨコの柄のエプロンで、洗い物に立ち、平苺が
バスタブにお湯を張る。優しいハミングとともにてきぱきと食器を洗っていく
少年の背中から、平苺はそっと愛しげに抱きしめる。
「あの…ね、ほめおくん…」「はい?」
「ほめおくんが、とまりであそびにきてくれて、
ひな、きぜつしそうなぐらい、うれしいのよー!」「大袈裟ですよ、平苺さん!」
  そこで恥ずかしそうに、美女は少年の日向の匂いのする髪に、細い顎をうずめる。
「それでね…ほめおくん、ひな、ひなね、ほめおくんのこと、たいせつにしたいの」
「?」
「だから、その…」
「はい?」
「ほ、ほめおくんが、もうすこしおおきくなるまで、
ひな、ほめおくんに、えっちなことはしないからね!」
  自分の背中から抱きしめる。美女の言葉に意味が染みとおるまでの数呼吸沈黙して、
ぼっと音を立てるように、真っ赤になる美少年。
「ひ、平苺さん!!そ、そんな!なに、あの、ぼく!?」
「ごめんなさい!でもね、まじめなおはなしなの!」
  離したくないとばかりに、少年のうなじを、たっぷりした胸の谷間に深く抱きしめながら、
必死に声を励ます平苺。その声の真剣さに、動きを止めて、自分を抱きしめる
美女の手に、無言で指を重ねる少年。
「ひな、だから、いっしょうけんめいがまんするから…それでもだめなときは、
  つきとばしてにげちゃってもいいからね?」「そんなこと、しませんよ」
「それはそれでもんだいなの!いまはそれでつかまっちゃうのよー!」
  眉間にぐっとしわを寄せつつも、腕と胸のなかの少年の体温にうっとりする平苺。
  その手を、信頼を込めて優しく叩くと、振り返らないまま少年は微笑む。
「大丈夫です!ぼく、平苺さんのこと、信じてますから。」
(ああ…やっぱり、やっぱり、むしろそれがきけんなの…!)
  美女は、複雑な幸福感に頭の中をかきまわされて、もう一度少年の髪の日向の匂いを
静かに吸い込むのだった。
「あの…ね、だから…また、てをつないで、いっしょにねてもいい?」
「はい。クリスマスですから!いっぱい甘えてくださいね!」
  自分に無条件の信頼をくれる少年の無邪気な言葉に打ち砕かれそうな理性を、
美女は全身の意志力を振り絞って再構築するのだった。

(ん…)
  いつもより3倍ほど、念入りに髪と身体を洗いたて、おろしたての薄手のパジャマに
着替えて、同じく湯上りのほめ男少年の髪を乾かし、梳って編み込み、これも
贅沢な就寝前のひとときを楽しんだ後、布団を二つ並べて少年と美女は
枕を並べて、布団に入る。
「えへへへへ、ほめおくん?」「はい、平苺さん…」
布団の境界線ぎりぎりまで身を寄せた美女に、ふわりと笑いながら腕をゆだねる
少年。幸福そうなため息と共に、そのしなやかな腕を大切そうに胸に抱え込む。
「はぁ…ひな、いま、すごくしあわせー…」
「うふふふ、大袈裟ですよ、平苺さん。」
  ついで、自分の髪を、猫のように撫でてくれる少年の手のひらを感じて、
いっそ性的ともいえる幸福感に存分に酔いしれる美女。
  ほんのすこしだけ楽しんだシャンパンの上質な酔いも手伝ったのか、少年の
呼吸が静かな寝息に変わったのを確認して、自然に浮いてくる少女のような
微笑みのまま美女も、贅沢な眠りに身を浸すのだった。

「平苺さん…平苺さん!」
  小さいが、はっきりした少年の声に、いつものようにぐずることもなく
ばちりと目をあける美女。
「ほめおくん…?」
  美女の視線をとらえたことを確認して、常夜灯の薄明かりの中、
いつになく真剣な表情で、そっと唇をなめる少年。小さなピンク色の舌に、
表現しがたい青い艶を感じて背筋をふるわせる。
「あの…こういうことって、きっかけが大切だって…前のことで、
ぼく、覚えました…」
  少年の、自分より綺麗な細い指が、一つ一つ、少年のパジャマのボタンを
外していくのを、眼も離せずに見つめる美女。
「今日は…クリスマスイブだから…二人っきり、ですから…」
  パジャマが肩から滑り落ちて、薄闇の中でも真っ白な少年の素裸の上半身が
夜の空気に晒される。目を伏せて、荒くなる呼吸を賢明に沈める少年の
桜色の乳首が、寒さと緊張のせいか、固く立ち上がっているのまではっきり分かった。
「ほ…ほめおくん!?」
  毎晩に近いほど、夢に落ちる前の想像の一時に現れていた愛しい少年の
裸を目撃して、押し殺した悲鳴に近い声を漏らす平苺。声は喉の奥で絡まって、
奇妙な呻きに近くなった。
「我慢していたのは…ぼくも…ですから…
  だから…」
心配になるぐらい緊張した横顔を見せる少年の、言葉の意味と、二人きりの
寝床でその裸をさらす意味を受け止めて、脳内で一瞬のうちに数百回の
否定と、意識しないままの二重否定を繰り返す美女。
「い、いいの!?じゃなくて、あ、その、だめな…だめなんだけど…」
  平苺は意思力を奮い起こして、少年のパジャマを拾い上げて、その細い肩に
かけてあげる、はずだったのだが、美女の身体は実に正直に持ち主の
予定に逆らうと、宝石の感触をなぞるように、少年の裸体を観賞していた。
横座りになった少年が、邪魔そうに、パジャマのズボンをそっと膝まで下ろし、
蹴りのける。飾りげの無いボクサーパンツを、数回呼吸を整えてから、
思い切ったように引き下ろす少年。
(おおー!!!)
  意識せず両手で拳を握り締めて、はじめて目にする少年の男性を
凝視する美女。小振りながらこちこちに屹立したそれの先端が、濡れて
光っているのまで分かって、思考回路が一気に焼き付く。
  そして、少年は、薄く涙を浮かべた泣きそうな顔で、切なげにささやく。
「平苺さん…あの…ごめんなさい、ぼく…もう…恥ずかしくて…
  駄目ですか…?」
  少年にとっても、一生一度の蛮勇をふるっての行動にちがいなく、また
死ぬより恥ずかしいだろう行為と告白を、自分のためにとっておいてくれた!
(せかいじゅうのぜんぶのかみさま!サンタさん!
  ほんとうのほんとうに、ありがとうなのよー!!)
  可能な限り優しく、そのわりには断固とした意思を漲らせて、少年の
身体を引き攫うように抱きしめると、良識や法律、常識や将来設計ごと
邪魔な衣服を脱ぎ捨てるのだった。

「はっ!?」
  部屋に、透明な朝の日差しが丸く差し込み、小鳥のさえずりが
細く小さく届いている。見慣れた自分の部屋、自分の布団だ。
(ああ…まさか…またゆめ、なの…)
  目蓋の重いはれぼったい目を擦って、のろのろと身を起こす
平苺。年末進行の残業続きで過密労働が煮詰まるのに比例して、
あの大切な少年の夢を見ることが多くなる。しかし、あれほど悩ましい
夢は初めてだった。
(いろいろ…よっきゅうふまんがたまっているのかしらー?)
(でも…ゆめでも、ものすごくうれしいゆめだったの…)
  サンタクロースに無言の感謝を捧げる平苺。
  と、その眼に、あどけない寝顔を見せて、優しい寝息を立てる
少年が、自分の腰を抱きしめている姿が入る。
「なっ!?」
(えっ!?えええ!?どっ、どこからがゆめだったのかしら!?)
  部屋の中のクリスマスの飾り付け、空になったシャンパンボトルが
確認できる以上、ほめ男少年がクリスマスにお泊まりに来てくれたところまでは
夢では無いらしい。
「か…かみさま…」
  十字を切りつつ、おそるおそる自分とほめ男少年の状況を確認する。
  ほめ男少年は、着衣の乱れもなく、ちゃんとパジャマの上下も来たまま、
天使のような無垢な寝顔を見せていることで、心の底から安堵の吐息をつく。
自分もまた、ボタンを3つめまで外し、ブラをしていない胸が半ばはみ出ていたとはいえ、
パジャマのズボンもちゃんと履いて…
「あー…まあ、そうなるのよ…」
  小さめの下着がずっしりと重く湿る…というか失禁でもしたかのように濡れそぼっているのに
気づいて、少年が眠っているうちに、情けなさにため息をつきつつ、バスルームで
下着を手洗いする平苺の姿があった。
「はー…せっかくのクリスマスなのに…ひな、これじゃへんたいよー…」
(でもまあ…とってもいいイブで…とってもいいゆめ、だったかな…)
  さっとシャワーを浴びて汗と夢の名残を(物理的にも)洗い流し、新品の
レースのショーツの封を切ってきゅっと履くと、含み笑いを浮かべながら、
少年の眠る布団の中へ、世にも贅沢な二度寝に戻るのだった。

…ちなみに、数十分後、今度は少年が、半泣きになりながら
バスルームで自分の下着を手洗いすることになるのだが、それはまた
別のお話。

ほめとひら クリスマスイブ 完

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